美徳の不幸 part 2

Pity is akin to love.

魂の救い

偉く大袈裟なタイトルになったが、この数日、永野のりこ先生の『GOD SAVE THE すげこまくん』を読み返していて、永野先生がある意味デビュー作から執拗に描いてきたものを改めて考えていたのだ(僕は『みすてないでデイジー』以来のファンである)。それで夜更かしして、寝坊しちゃったけど。

よくこのネタ一本(すげこまくんがマッドな科学力で松沢先生をストーキングする)で12巻も描いたよなあ、と改めて感心するが、すげこまくんの反応は、まさに被虐待児の典型的な反応なんだよね。自分が全面的に受け入れられなかった体験から、わざと受け入れられないような暴挙に出る、というやつ(いわゆる境界線型人格障害っていうのも、これだったよね。対人関係において全面的な肯定や依存か、それとも全面的な拒否かと極端になりがちって、昔は精神医学の教科書に書いてあったと思う。今はどう定義されているのか追えていないけど)。オウム真理教の在り方って、コレを集団レヴェルにしちゃったものと解釈できるかも。オウムを精神分析の立場から研究したロバート・リフトンの『終末と救済の幻想―オウム真理教とは何か』の原タイトルは“Destroying the world to save it”というものだった。上手いタイトルだよなあ。「この世が救いようもないほどの悪に満たされているから、滅ぼしてやるんだ」という“逆ギレ”の構造は、すげこまくんに通じるものがある(もしかしたら、永野作品って、セカイ系の走りかもね)。
そのすげこまくんを受け止める松沢先生は、もはや宗教的な高みに達しているよ(宗教的な意匠も作品に実はちりばめられているけど)。最終巻を読み返して、ジ〜ンときちゃったぜ。もちろん、このネタをもっと濃縮させたのが名作『電波オデッセイ』だと思うけど。
電波オデッセイ (4) (アスペクトコミックス)

電波オデッセイ (4) (アスペクトコミックス)

僕の一番好きな台詞を一つだけ引用する。

「ダメだのスカだの自分で自分にそんな呪いの言葉浴びせかけてる「ヨユー」なんざ、コレぽっちもないねっっ!!」(4巻、p.54)

最新作が、講談社ウェブコミックとして連載されて、単行本化されたけど、実際に本の形で売って欲しいよなあ。どうもダウンロード販売って・・・。