美徳の不幸 part 2

Pity is akin to love.

ベネディクト・アンダーソンの柔軟性

午後はずっとこの本を読んでいた。サクッと読了。ベネディクト・アンダーソンの講演はこなれた口語だし、それでいて驚異的な蓄積を感じさせるものだ(ホセ・リサールをモデルにした小説を書いた日本人がいたなんて、これを読んで初めて知った)。後半の梅森氏の解説も大変分かり易い。

ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)

ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)

僕が感じ入ったのは、アンダーソン教授の思考の「柔軟さ」とでも呼ぶべきものだった。まず彼の講演自体が名著『想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険)』の自己批判から始まるのである(僕がこの本を読んだのは、16年ほど前か。この本をまず指導教官だった島薗進先生が褒めており、学園祭の某シンポで東浩紀君が引用していたのを聞いて、ミーハーな僕はすぐに本屋に走ったのだった・・・)。この本のタイトル通り、前著で足りなかったと彼自身も思う「グローバリゼーション」に関する考察を付け加えるのが講演の主旨であると要約できようか。でも、一番笑ったのは、この箇所(領土の神聖性が高まっているので、ある国家がこれ以上領土を拡大するような動きは起きないだろうという予想の文脈で。もちろん領土をめぐる紛争が無くなるとアンダーソンはいっていない)。

日本が世界第一位の経済国になったといばっていた頃のことです。アメリカは日本の経済的成功を憂慮していました。アメリカの経済が低迷していた時代です。
わたしは学生に言いました。「問題はすぐにでも解決できる」。「どうすればいいの?」かれらはわたしに尋ねました。わたしは言いました。「アメリカの領土の多くはもともと金で買われたものだ。ルイジアナはナポレオンから、アラスカは南北戦争後にロシアの皇帝からから買ったものだ。だから今度は、アラスカを日本に売ればよい。日本は高く買うだろうから」。学生はそれを聞くと、なんて恐ろしい奴だという目でわたしを見ました。アラスカを売るということを、彼らは概念として受け入れることができなかったのです。(p.213)

こういう部分が、僕の思うアンダーソン教授の柔軟性だ。アメリカンジョーク、というよりはアイリッシュジョークなのかも知れないけど(彼がアイルランド国籍、というのもこの本で初めて知った)。
やはり時間が許せば、彼が各方面からの批判に応えるべく書いたこの本(当然積ん読状態)に手を付けねばなるまいな。

比較の亡霊―ナショナリズム・東南アジア・世界

比較の亡霊―ナショナリズム・東南アジア・世界