美徳の不幸 part 2

Pity is akin to love.

ファシズムは民主主義でもやってくる

電車の中で読了。すげー疲れました。約二年ちょっとの日本近代政治史の流れだっていうのに、坂野先生、記述が濃いぃぃぃぃ。何か、集中講義で朝から夕方まで一週間講義を受けたような気持ちになりました(ちょっと大袈裟かな。でも、最近の新書では群を抜いているしっかりさ加減だ)。

昭和史の決定的瞬間 (ちくま新書)

昭和史の決定的瞬間 (ちくま新書)

この書は、「二・二六事件」や「日中戦争開始」を挟んだ昭和10年から12年頃を中心に記述しているのだが、たった二年間でもこれだけ複雑怪奇(@平沼騏一郎、時代はもうちょっと先だけど)なんだとびっくり。
僕なりに読み取ったことを書くと、我々が漠然と持っている「二・二六事件によって民主主義は死滅し、軍国主義ファシズムはなし崩し的に戦争に突入した」というイメージは正確ではなく、民主主義の弾圧どころかこのクーデターの直後も総選挙が行われて社会大衆党という社会民主主義政党が議席を伸ばしたり、想像以上に総合雑誌言論の自由があったり、宇垣一成を担いで戦争を防止しようとした動きとかがあった(この内閣の「流産」のことは知っていたが、宇垣が戦争防止のために担がれたというのは恥ずかしながら知らなかった。軍人だし、総力戦思想の持ち主だと思っていたし、何せ朝鮮総督までやった人だから、僕の見る眼が曇っていたのかも。勿論彼は平和主義者ではないんだけど)、という新たな歴史像を提示したものと言えるだろう。
問題は、民主化が盛り上がったその時期の直後に泥沼化する日中戦争が始まり、議会もそれを止められなかった、という「歴史的教訓」である。また「平和と民主主義」「軍とファシズム」というのは必然的な結びつきではない、というシビアな事実もこの本で教えられたと思う(上記のような単純な結びつきの図式で見ると、この時代は正確には読み取れない、というのが坂野先生の主張の核だと思う)。
真に平和を考える歴史学者の鑑となる本だと思う。