美徳の不幸 part 2

Pity is akin to love.

天皇制存続のわけ

機内で白ワインを飲みながら読み終わったのはこの本。

天皇はなぜ生き残ったか (新潮新書)

天皇はなぜ生き残ったか (新潮新書)

最近、大学院の総合ゼミで中世史の発表を聞く機会も多いので、この手の新書をちょこちょこ読んでいる。読みやすい文体ながら、なかなか問題提起的というか、論争的 polemical な本。
本郷先生は、権門体制論とか、いわゆる定説の再考を提起しており、気の弱い僕などはその姿勢だけでも尊敬してしまう。よく天皇と将軍は「権威と権力」と定式化され、それをヨーロッパのローマ教皇と各国の王、イスラーム帝国のカリフとスルタンと比定されたりしてきたわけだが、そういう「安直なものの見方」を本郷先生は拒絶する。要するに「中世の天皇は権威というほどのものでもなかった」というのがこの本の柱。どうしても律令という「当為Sollen(建前)」が文書には残っているから、ついそれに引きずられるわけだが、実際は天皇の位なんて武士層のむき出しの暴力(実情Sein=本音)に左右される程度の存在でしかなかったことをこの本は指摘している(両統迭立とか南北朝も「いざとなれば別の選択肢もある」と武士側が考えたので敢えて放置された結果だとか)。それでも天皇(制)が残されたのは、「情報の王」としてはまだ「君臨」できたから…というのがこの本の眼目。
読みながら思い出したのは、丸山眞男の講義録。確か、御成敗式目の成立が「そこらへんのチンピラと武士を分ける自意識の画期」とか、そういう指摘をしてなかったっけな(もう10年以上前に読んだので、記憶があいまいだが)。