美徳の不幸 part 2

Pity is akin to love.

欲望は昂進する。そして「嫌なものは嫌」だと言える自由を。

えらく抽象的な題になったが、気になったニュースの雑感を。代理出産についてのニュースだ。

 諏訪マタニティークリニック(長野県)の根津八紘院長は4日、これまで独自実施してきた代理出産のデータを公表した。(中略)
 一方、代理母は、妻の実母が5例、実姉妹3例、義姉妹が7例。35歳以上が15例中10例を占め、合併症が起きやすい比較的高い年齢の人が目立つ。55歳以上の人も4例おり、いずれも妻の実母だった。
 根津院長は「学術会議の結論は不妊患者ら当事者の声が反映されていない。多くの国民に現実を知ってほしい」と話している。
 日本産科婦人科学会の星合昊(ひろし)倫理委員長の話「症例報告としては医学的内容に乏しく、コメントできない。学会としては根津医師に事実確認を求めてきたが、こういう形で公表されたのは極めて遺憾だ」
代理出産の根津医師が独自データ公表、15例で出産は8例(2008年4月4日20時59分 読売新聞)

代理母については、日本ではこのように学会に認められておらず、根津医師も学会から「追放」処分を受けているわけだが、気になるのは代理母の依頼先が「妻の実母」と「義姉妹」であるという部分だ。自分の母親、というのも個人的には余りいい気はしないが、ここぞという時には家族に頼らざるを得ない事情はよく判る。でも、血縁関係のない義姉妹が一番の多いというのもビックリだ。
日本においては、生体臓器移植(肝臓とか腎臓)でも結局「家族(親子、兄弟のような血縁者だけでなく、配偶者も含む)」に圧倒的に頼っているというデータがある(例えば、生体肝移植における家族間の葛藤などについての統計調査として、日本肝移植研究会ドナー調査委員会編『生体肝移植ドナーに関する調査報告書』2005年、参照)。妻が夫のドナーになる、ということも良くあるんだよね。「家族愛」という美名のもとで。これは上記の「義姉妹」に通じる問題だと思う。
僕は一概に代理母に反対の立場ではないが、何が何でも自分の遺伝子を受け継いだ子供を持つという欲望からは一歩引いた立場でいたいと思っている。
医療・医学の進歩は、今まで不可能だったことを可能にするがゆえに、「諦め」の態度を却って許さない。「まだこんな治療法があるというのに、あなたはここで諦めるんですか?」と迫られれば、これを拒めるものは少なかろう。
でも、敢えて「生理的」という言葉を使うが、自分にとって生理的に「過剰医療」としか思えないものに関して「嫌なものは嫌だ」と言える自由は確保しておきたいと思う。