美徳の不幸 part 2

Pity is akin to love.

痛快な靖国論

小島毅先生の新書を読了。いやー、すごく面白かったし勉強になった。しかも読みやすいという新書としての条件を全て満たした好著。

靖国史観―幕末維新という深淵 (ちくま新書)

靖国史観―幕末維新という深淵 (ちくま新書)

中国哲学の先生って、物凄く厳格な方が多くて近寄りがたいというイメージだったけど、小島先生は(実際のお人柄は知らないけど)、非常にフレンドリーな方だろうというのは文面から伝わってくる。
靖国がいわゆる「非業の死に斃れた者の怨霊を恐れる」御霊信仰の伝統から外れた「近代的な思想」を構築したことは既に各論者が説いているところだが、小島先生のこの本はその思想の淵源を儒教(水戸学)に求めている。そして「官軍・賊軍」という基準を設けてしまったことで、靖国は最初からある種の矛盾を抱えてしまったということも指摘している(簡単に言えば「勝てば官軍」という言葉が示すとおり、この基準は相対的なもので、ひっくり返る余地がありありだ、ということ)。

靖国神社は勤王の志士たちを顕彰・慰撫するために創建されたのだ。そこにこそ靖国の本質がある。
新撰組組長だった近藤勇東京裁判よりもひどい一方的な断罪で復讐刑的に斬首し、会津で交戦した白虎隊をふくむ軍人たちのまともな埋葬すら許さぬままに、敵の本営だった江戸城内で仲間の戦死者の慰霊祭を行った連中。靖国を創建させたのはこういう人達であった。(p.196)

勢いでもう一冊小島先生の本を買ってしまった。小島先生は本当に射程が広いなあ。