美徳の不幸 part 2

Pity is akin to love.

(文字通りの)博士の異常な愛情

昔、僕は「物知り博士」と呼ばれた子どもの定番だが、学研が出していた図鑑の類を隅から隅まで眺めて、無意味に昆虫の名前とかを暗記していた。今となっては部屋に出たゴキブリにパニクるくらいの軟弱な人間になってしまったが、昆虫や生物の蘊蓄話を聞くのは相変わらず好きな方である(生物学系の友人が多いせいもあって)。
で、今回手に取った本は、思いっきり専門書なのだが、文章のうまさに載せられて、あれよあれよという間に読み終えてしまった。やだ、すごい、こんなの初めて。

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

作者の前野さんのことは、ご多分に漏れず、メレ山メレ子さんのブログ経由でその存在を知り、彼のブログのあまりの面白さに半日掛けて、バックナンバーをほぼ読みふけってしまって以来のファンとなり、この本を鶴首して待っていたのである。
で、内容はといえば、一言で言うと「(バッタ)博士の異常な愛情もしくは「不完全変態の生物を追う完全変態の男の成長記(ビルドゥングスロマン)」とでも言えばいいだろうか。ファーブルおよび「緑色の服を着ていたせいでバッタに襲われた女性の話」に感動した少年が(後者を忘れないところが完全な変態たるゆえん)、その気持ちを忘れずに、本当にバッタ愛に溢れる(バッタに触れすぎてアレルギー反応が起こるほどの体になりつつ)「虫の博士」になってしまうという成長記である。人類は大量発生するバッタ・イナゴ類の被害に昔から遭遇してきたが、密集した状況で生じる「群生相」がその「悪魔のバッタ」であり、前野氏はその発生メカニズムを様々な角度から解き明かし、最終的には「現地調査をせねば」と、単身アフリカの砂漠国であるモーリタニアまで行き、「孤独相」となってまで研究に余念がない。
専門外の僕は細かいデータは殆どすっ飛ばして読みましたが(済みません)、コラムも充実、ふざけているように見える章立ても実は深い意味があると判ったときの感動たるや、久々に良質の科学読本を手にしたと思いました。おすすめ(ただし虫の写真に拒絶反応が出ない人にだけ)。