「教誨師」を見る
今日は朝から、大杉漣さんの最後の映画となった「教誨師」を出町座まで見に行く。朝っぱらからこんな重たいものを流してどうするつもりだ、出町座、と思ったが、レイトショーでもどんよりした気持ちで帰らざるを得ないから、どっちにしても同じだよな、と思い直す。
物語の筋としては単純で、大杉漣演じる牧師の教誨師が、6人の個性的な死刑囚と対話を重ねて、互いに変化していく、というもの。ただ、この密室劇は、テーマがテーマなだけに、教誨師にシンクロせざるを得ない観客にとってはなかなかつらいのも事実。最近「傾聴活動」というのが宗教者の間でよく語られるが、この映画はその「しんどさ」を追体験できる映画であるともいえるだろう。
密室劇であるから、必然的に会話が中心となるわけだが、皆さん演技力がすごく、その点は全く飽きさせない作りとなっている。
6人の死刑囚がそれぞれどんな背景を持っているかがその中で明らかにされるが(最後まで明らかにされない死刑囚もいる)、常に教誨師は「自分の言葉は果たして彼らに届いているのか」「彼らのために自分は役に立っているのか」を自問自答せざるを得ず、宗教者の無力さがこれでもかと描かれている。ともすれば文字通り「説教」くさくなりそうなテーマを単なる「救い」というゴールに向かって進むような陳腐なものにはしていない。特に、現実の死刑囚をモデルにしたであろう大量殺人者の「高宮」、ストーカー殺人をしたとおぼしい「鈴木」との「対話の不可能性」を突きつけられるシーンはやはりこの映画の見所といえるだろう。
そしてある死刑囚は教誨師に「こんなのやってて、虚しくならないのか」と疑問を突きつける。それに対する答えは映画を見ていただくほかはないが、僕にとってはその「答え」がこの映画の最も重要なメッセージだったと思う。
なお、僕も以前に読んだ堀川惠子さんの『教誨師』という本は、主人公は僧侶だが、この映画同様、死刑囚と向き合うとはどういうことかを教えてくれる佳作である。
「1987,ある戦いの真実」
今日は、京都シネマで、韓国民主化運動をモチーフにした「1987,ある戦いの真実」を見に行った。今日は水曜日で割引だった。
【1987、ある闘いの真実】キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、パク・ヒスン、イ・ヒジュンからのメッセージ
これは、あるソウル大生が水拷問で殺害されたことをきっかけに、様々な人がその「真実」を暴き出し、それが報道され、全斗煥政権が崩れていった現代史を切り取ったもの。もちろんフィクションも入っているが、概ね事実を元にした物語作りをしている。
当時「反共」といえば何でも許されるという世相で、検察、警察内ですら異議を唱えようものなら、即暴力におびえねばならないような時代。
はみ出しものだが、正義感のある検事がマスコミに大学生の拷問死をリークするところから始まり、サスペンス風味でそれが広がっていくのが主なストーリー。実際、検死をした医師によってその真相が伝えられたという歴史的事実もある。
光州事件と取り扱った「タクシー運転手」もそうだったが、このところの韓国映画は、自国の「恥部」ともいえる歴史を、エンタメ成分も混ぜながら、素晴らしい映画に仕立て上げている。
両作品とも「元々はノンポリだったが、目の前で繰り広げられるあまりに酸鼻な現実を見て、いてもたってもいられずに立ち上がる」キャラクターがいる、という作りになっていたな。
俳優たちも素晴らしいが、まさかヒロインが惚れるイケメン長身大学生が、催涙弾の犠牲になった「彼」だったとは、ちょっとびっくり。そういう風に持ってきましたか・・・。
韓国現代史に興味のある方は是非ご覧ください。良作です。
ワルキューレ「が」とまらない
先日届いた、「ワルキューレ」のライブDVDと、このグループの一員であるJUNNAちゃんのフルアルバムを繰り返し試聴している。
やはりこのグループのグルーブ感、好きですねえ。見ながらつい体が動いて、肩こりにいいです(笑)。 今回のライブでは、鈴木みのりちゃんが、色んな意味でキレッキレ。移動する舞台(下が見える!)で飛び跳ねまくったり、わざと歌を外して観客を煽ったり。特典映像で、子供のように終演後泣きじゃくる彼女を見て、益々好きになったよ。
【ダイジェストPV】ワルキューレ/LIVE 2018 “ワルキューレは裏切らない” at 横浜アリーナ
17才が美しいなんて、誰が言った。(初回限定盤)(Blu-ray Disc付)
- アーティスト: JUNNA,Miss-art,SiZK
- 出版社/メーカー: FlyingDog
- 発売日: 2018/10/31
- メディア: CD
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そもそも僕がJUNNAちゃんを知ったのは、アニメ『魔法使いの嫁』でなんだよね。そのオープニングテーマ「Here」がかっこよく(このアルバム所収)、「この子誰?」と思って調べて、ワルキューレに遡ったという経緯があります。そもそもこのアニメを見ようと思ったのは、エンディング・テーマ「環―cycle―」が、亡くなった吉良知彦さんの「遺作」だったから。作詞はもちろん小峰公子さん、編曲は上野洋子さんという、zabadakファンを泣かせにかかるメンツだったのよ・・・。だから、JUNNAちゃんの存在を知ったのは、僕にとっては「掘り出し物」のようなもの。
まだ彼女、18歳になったばかりなんだよね。恐るべし。このアルバムタイトルは彼女の実年齢からなのはもちろんだけど、恐らく、ポール・ニザンの「僕は20歳だった。それが人の一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい」(ポール・ニザン『アデン・アラビア』)というフレーズのもじりだな(ディレクターの趣味っぽいな)。
満洲の天理教の資料など
今日はふらっと街中に出て、専門書をいくつか購入。
復刻された資料。天理教の機関紙『みちのとも』を読んでいると、昭和初期から満洲の「天理村」の記事が多くなっていて、その「結末」を既に知っている我々は胸を突かれる思いがする(ついでにいうと、満洲天理村の悲劇に着想を得た小説として、高橋和巳の『邪宗門』が挙げられる。ちなみに高橋の母親は熱心な天理教信者だった)。
知り合いが多数参加したシンポジウムから生まれた本。この本で俎上に挙げられている村上重良・島薗進に連なるという自意識を持つ僕としても、目を通さねばなるまい。
感情社会学の元祖、ホックシールドの新著。アメリカの右派に関するものなので、興味を持った。
現代日本の宗教事情〈国内編I〉 (いま宗教に向きあう 第1巻)
- 作者: 堀江宗正,池澤優,藤原聖子,西村明
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2018/09/27
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隠される宗教,顕れる宗教 〈国内編II〉 (いま宗教に向きあう 第2巻)
- 作者: 西村明,池澤優,藤原聖子,堀江宗正
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2018/10/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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東大宗教学研究室出身者が集まって編集した宗教学講座もの。 僕も第4巻に書いています(12月出版予定)。手前味噌ですが、多岐にわたる論点を出していますので、様々な関心を持つ方に参考になると思います。お買い求めor図書館にリクエストして下されば幸いです。
神保町ブックフェスティバルにて
日曜日は、京都に帰る直前に「神保町ブックフェスティバル」に立ち寄り、ここぞとばかりに新古書を買いあさった。以下、今回買った本のメモです。
タイトル通り、沖縄における/沖縄をめぐる闘争の歴史を扱ったもの。
これは南西諸島のシャーマニズムの営みを民俗医療と捉えたモノグラフ。
研究会で一度だけ会ったことのある中村さんの博論。
森話社の「日本映画叢書」の2冊と、もう1冊映画史のものををゲット。
満洲分村移民を拒否した村長 佐々木忠綱の生き方と信念 (信毎選書)
- 作者: 大日方悦夫
- 出版社/メーカー: 信濃毎日新聞社
- 発売日: 2018/08/02
- メディア: 単行本
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信濃毎日新聞は、このところ戦前の満洲に関していい本を出しているな。
研究会で知り合った浜野さんの単著。こういうものはやはり揃えねば。
ゼミ生に原爆映画や原爆マンガ、文学を調べたいというのがいたので。
韓国研究の大先達、伊藤先生の脱北者インタビューの集大成。
この写真集も安く入手できた。感謝。
これはサイン本を入手。
滋賀の出版社のこの本をゲット、最近は滋賀県の日本酒を好んで飲んでいるので。
このブックフェスティバル、版元には本当に申し訳ない気持ちになるが、何せほとんどが半額なので、その誘惑には抗えないです。
多重録音Asturiasの新作『天翔』―Across the ridge to heaven―
日本のプログレで、僕が一番好きなバンドの一つで、大山曜さん率いる「Asturias」の新作を購入。ずっとヘビロテしても飽きない音作り。一応3部作のシメらしいのだが、このところ毎年のようにアルバムを出してくれていただけでも、僕は満足。
毎回使われる、大山さんのお父さんの抽象画をもとにしてデザインされた表紙もかっこいいんだよなあ・・・(見分けはつきにくいけど(笑))。
ridge to heaven 天界への道 / "Across the Ridge to Heaven" Asturias
アンベードカルの新たなブームなのか?
今日大学に届いた研究書のご紹介。ちょっと検索して驚いたのだが、インド初代の法務大臣にして「新仏教運動」の指導者だったアンベードカルについての研究書が結構出ていて驚いた。そこで、それらのアンベードカル本を中心にまとめ買い。
変貌と伝統の現代インド: アンベードカルと再定義されるダルマ (龍谷大学国際社会文化研究所叢書)
- 作者: 嵩満也
- 出版社/メーカー: 法藏館
- 発売日: 2018/04/13
- メディア: 単行本
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社会苦に挑む南アジアの仏教: B. R. アンベードカルと佐々井秀嶺による不可触民解放闘争
- 作者: 関根康正,根本達,志賀浄邦,鈴木晋介
- 出版社/メーカー: 関西学院大学出版会
- 発売日: 2016/08/10
- メディア: 単行本
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まずはこれらのアンベードカル本。特に、今年2冊出している法蔵館の動きが気になる(というか、この前宗教学会の書籍販売コーナーで知ったのだけど)。ついでに他のインド関連の文化人類学系の本も購入。
どちらも興味がそそられたので。あとは日本近代史、社会史関連のもの。
最近の青弓社は、結構「攻めている」気がする。気にはなっていたが、あまり誰も手をつけてこなかった、という研究を多く取り上げているな。
勁草書房のこの「日本の科学史」シリーズは取り敢えず買っている。知り合いも執筆していることが多いし、自分の大学には「科学史」の講義がないので、学生に見せてやりたいというのもある(その割に学生は「核」の問題とかを扱いたがるので)。
編集委員がほとんど友人というのに気づいた(笑)。このところ、映画史の本も集めつつあるので、これもその一環。
著者の大東さんはこれまでも反戦、非戦を貫いた希有な僧侶たちを取り上げてきたが、今回は植木等のお父さんの伝記。
生きられる死: 米国ホスピスの実践とそこに埋め込まれた死生観の民族誌
- 作者: 服部洋一,服部洋一遺稿刊行委員会
- 出版社/メーカー: 三元社
- 発売日: 2018/09/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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僕はこの服部さんという方を知らないのだが、アメリカのホスピスを調べた貴重なものらしい。その方の遺稿集。お若くして急逝されたそうな。序文は船曳建夫先生がご執筆。